近年、ハイクラス人材の転職先として高い人気を誇るコンサルティングファーム。その中でも特に入社難易度が高く、優秀な人材が数多く集まることで知られているのが戦略系コンサルティングファーム(以下、戦略コンサル)だ。
戦略コンサルへの転職にはどのようなメリットがあるのか。今、戦略コンサルタントを目指す価値は果たしてあるのか。今回は、戦略系コンサルティングファームとして業界をリードするベイン・アンド・カンパニーにて戦略コンサルタントとして活躍しながら人事採用のスクリーニングマネージャーを務めた経歴を持つ「STRATEGY:BOOTCAMP」代表取締役社長・河野 博氏に話を聞いた。
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戦略コンサルは大幅な拡大フェーズ
── 現在、戦略コンサルにおける人材採用はどのような状況でしょうか?
基本的には各社共通して採用人数を増やしています。コロナ直後は一時的に採用人数を絞るような動きも見られましたが、今では完全に採用強化の流れに戻っています。戦略部隊に加えて実行部隊を強化しているのが最近の状況です。
採用拡大の背景には日本社会における構造的な問題があります。成熟期を迎えている日本企業においては、業種を問わず、どの会社も新たな成長戦略を打ち出さなければならない状況にあります。一方で、どのようにしてテクノロジーを活用しながら自社を変革していくべきかについてほとんどの企業が明確な答えを出すことができていません。
これまではコンサルティングファームの力を借りずに対応してきましたが、「そろそろ悠長なことを言っていられるような状況ではなくなっている」という認識が各社で広がってきています。結果、コンサルティングファームへの需要が高まり、それが求人状況にも反映されていると考えられます。
── 最近では各社ともに大量採用に舵を切っていて、「入社難易度が下がっている」と聞きます。
採用人数を増やしていることから、これまでであれば選考通過の可能性が高くなかったような方でも内定を獲得するケースが増えてきています。実際、私が新卒入社した当時のベイン・アンド・カンパニーでは新卒採用の人数は5人程度でしたが、今では約50人を新卒で採用している状況です。
人材の質の変化に関しては、様々な捉え方があると思っています。以前に比べて人材の質が落ちているという見解を述べる方もいらっしゃいますが、求められる能力水準は相変わらず高いです。
また勤務環境については、大幅に「ホワイト化」しています。今では、週何時間労働したらアラートが鳴って、それ以上は業務ができないといった仕組みがあります。ただ逆に、限られた時間内でのアウトプットしか見られないという点では、よりシビアになっていると考えることもできます。
── 特定のスキルや事業ドメインに関する知識があれば選考で有利に働くことはあるのでしょうか?
基本的にはほぼないと考えて良いと思います。マッキンゼーやボストン・コンサルティング・グループの実行部隊の一部では、そういった特定の業界知見を生かすことができるケースがあります。もちろんエッジの効いた実務経験があれば人材として強いのでしょうが、それが戦略コンサルタントとしてのメインの強みになるかと言われれば、限定的であると言わざるを得ません。あくまで土台となるスキルセットがあってこその強みとなると思います。
その一方で、最近はデジタル領域に強い人材はどのファームでも非常に重宝される傾向があります。英語力に関しては、ファームによって求められる/求められないが明確に区分されています。具体的には、マッキンゼーとベイン・アンド・カンパニーでは英語力が重視されます。ちなみに、マッキンゼーの方が求められる英語力の水準は高いです。
── 現在でも、Up or Outの考え方はありますか?
実力主義の世界ですので、Up or Outは存在します。いわゆる猶予期間についてはファームによって異なります。入社して半年くらいは試用期間となりますが、この試用期間の間に切られるケースもありますし、「30点以下の評価を2回取ったらクビ」というように制度として規定されている場合もあります。共通しているのは、実力がなければ沈んでいってしまうということです。
戦略コンサル出身者の強みと弱み
── 戦略コンサル出身者にはどのような強みと弱みがあるのでしょうか。
強みに関しては、まずは圧倒的に仕事のスピードが早いことが挙げられます。また、キャッチアップ力というか理解力の速さに加えて、断片的な要素から全体像を理解する能力に長けていることが大きな強みではないかと考えています。
弱みに関しては、これは特に新卒でコンサルに入社した方に多いのですが、真の意味での“現場感”に乏しいことだと考えています。私自身、ベイン・アンド・カンパニーに新卒で入社して7年間在籍した後、TBMというスタートアップ企業に転職したのですが、その時に本当の意味での実務というか、いわゆる「人の動かし方」について学ばせていただいたと考えています。
新卒で戦略コンサルに入社すると、どうしても「空想っぽいこと」を語りがちです。これは新卒で戦略コンサルに入社した私自身の経験からも強く感じることです。あとはリスクを取って飛び込む姿勢やコミット力、やり切る覚悟などが課題となるケースもあるように思います。
── 最近では戦略コンサルを経て起業するケースが増えました。河野さんが入社された当時は起業前提での入社は少なかったのでしょうか?
かなり少なかったですね。卒業後の選択肢としては、事業会社の経営企画部門か投資ファンドへの転職が多かったと思います。ベンチャーに転職する人はせいぜい5%程度。自分で会社を立ち上げるなんて1%以下というような状況でした。今は戦略コンサル出身者が起業して成功した事例がかなり増えたこともあって、スタートアップの世界に向かうこともかなり増えました。いわゆる成功のあり方が多様化しているのは良い傾向であると思います。
ベイン・アンド・カンパニーの特徴
── ベイン・アンド・カンパニーにはどのような特徴があるのでしょうか?
ジェネラリスト志向であることが特徴としてあると思います。これはどういうことかというと、何らかのインダストリーやケイパビリティにフォーカスして、その領域のプロジェクトだけを手掛けるわけではないということです。基本的にはマネージャーになるまではジェネラリストであることが求められます。いわゆる地頭だけで勝負しなければならない局面が他の戦略ファームと比べて多いと言えるのかもしれません。
プロジェクトに関しては、事業会社に加えて投資ファンドから仕事をいただく機会も多いです。特にビジネスを推進する上で必要となるキードライバーが明確なプロジェクトを任されることが多く、外資ファンドが手掛ける案件に呼んでいただくことが多いように思います。
── どのようなプロジェクトを中心に手掛けられていたのでしょうか。
日本で3年半、ロンドンで1年弱の間、プライベートエクイティ部門に所属していました。合計30〜40のプロジェクトに取り組みましたが、デューデリジェンス関連の案件については、20件以上行った経験があります。
デューデリジェンスといっても様々な種類がありますが、戦略コンサルに依頼されるデューデリジェンスはビジネスデューデリジェンスが中心です。「BtoB」と「BtoC」で5〜6件程度の案件をやればなんとなくコツが掴めてくると思います。それぞれのビジネスによってどのような論点があるのかに関してパターン認識ができてくると強いですね。
デューデリジェンスと言うと、エクセルでモデルを作って計算してということをイメージされることが多いですが、それ自体が戦略コンサルが提供するデューデリジェンスの価値となることはありません。財務モデルはあくまでアウトプットの一つにすぎず、そこに行き着くためにどのように市場の成長率を考えるか/様々なリスクなどの個別要因を適切に分析できるかがバリューであり、難しいところです。
総花的にすべての論点を深く分析できれば良いのですが、プロジェクト期間は基本的には4週間、長くても6週間、短ければ3週間の場合もあります。その中ですべての論点を洗い出すのは到底不可能です。それゆえ、どの論点をどのくらい細かく見ていく必要があるかについて適切に「当たり」をつけていく必要があります。そのために深い業界知見が求められることもあります。
戦略コンサルタントになることの価値
── 面接官として、どのようにして採用すべき人材を見極められていましたか?
最も重視していたのはケース面接です。私の場合は、志望動機についてはほとんど見ていませんでした。ケース面接では、フェルミ推定に加えて成長戦略を含む複雑性の高い議論が求められます。物事を適切に要素分解して、なおかつ打ち手としてクリエイティブなことを語れるかどうかを重点的に見ていました。ロジカルだけど打ち手が面白くない/アイデアマンだけどロジックがないといった方が多く、両方を兼ね備えている人はなかなかいません。そういった資質のある人を面接では探していました。
── 戦略コンサルタントとして生き残れるかどうかを決定する要因はどこにあるのでしょうか?
あくまで私個人の意見ですが、マインドが何よりも大切だと考えています。まず大前提として生き残ることを目指していたら生き残れません。私の場合は入社して3ヶ月で昇進しようと考えていました。それでやっと普通の評価を得られるという感覚です。
一歩も二歩も三歩も先を考えつつ、先輩に追いつき追い越そうとするマインドを持って努力を続けることが大切です。具体的には、平日のみならず土日も経営の勉強をする、同僚の成果物を見せてもらってアウトプットの参考にする、様々なプロジェクトに手を挙げて率先して取り組むなどです。それくらい貪欲に業務に取り組んで、やっと周りに差をつけることができるという感覚です。これから戦略コンサルへの入社を目指す人にこういったマインドの重要性を伝えていければと考えています。
── STRATEGY:BOOTCAMP開始の背景にはそのような考えもあったのですか?
そうですね。面接官を担当していた際に、「頭は良いけれど思考の型ができていなくて勿体ない」と感じる学生や若手ビジネスパーソンの方と接する機会が数多くありました。彼らが戦略的な視点や分析的な思考を身につけて、コンサルに入社して活躍していけば世の中にとって必ずプラスになる。そう考え、トライアルでサービスを開始したら想像以上にご好評をいただいているという状況です。チャレンジングな仕事に打ち込みたい方や経営コンサルタントとして社会にインパクトを与えたい方を徹底的にサポートさせていただいています。是非、お気軽にカウンセリングにお申し込みいただければと思います。