現在、スマートニュースのマーケティング担当執行役員を務める西口一希氏の書籍『たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング』を読んでいます。
西口氏は日本を代表するマーケターの一人として知られており、本書についても多くのビジネスパーソンから高い評価を受けている良書なのですが、キャリア形成の観点からも、非常に示唆的な内容を含んでいると個人的に感じたので、この場で共有させて頂きたいと思います。
参画前にネット調査でスマニューを分析
本書に記載されている通り、西口氏は2017年1月にスマートニュースのマーケティング責任者のポジションをヘッドハンターから紹介されたのですが、その際に、ビジネスチャンスを見極めるために、自らネット調査を活用し、顧客分析を実施したそうです。西口氏が実際に取り組んだ分析を紹介している箇所(P157-158)を本文から引用します。
当時はまだロクシタンに勤めていましたが、ランチ時などに周囲の社員に話を聞くと、スマートニュースを知っているのはおよそ3分の1程度、また特定の競合アプリAと比較する意見が多く聞こえました。そこで、毎日利用者をロイヤル顧客と定義した上で、それ以外の使用者を一般顧客として、スマートニュースと競合Aを含む4つのブランドに関して、ネットでの簡易調査で顧客ピラミッドを作成しました。18-69歳男女を対象に、調査母数1236人に対して設問5つで費用は6万円程度、設計から結果が出るまで3日でした
※ 顧客ピラミッドと言う言葉が登場していますが、詳細については本書をお読みください。
この調査を行なった結果、「スマートニュースは競合Aに対して認知度は低いものの、認知から利用へのコンバージョン、利用者の継続性は高く、離反率も低く、次回使用意向の割合(プレファレンス)も高い」ことが判明。そして、この事実を基に、「スマートニュースのプロダクト自体には高い魅力があり、ロイヤル顧客の規模も劣っていないので、マーケティング課題としては、まずブランド認知を競合A並みに引き上げながら、認知から使用経験のコンバージョンを強化し、プレファレンスは最低限維持することに絞られる」という仮説が得られたとのことです。
基本的な顧客分析は外部からも実施可能
本記事を読まれている方々の中には、このような分析を行うことは当たり前だと感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、私の知る限りでは、多くの転職希望者はこういった分析を行うことなしに、「なんとなくカッコ良さそう」といった「雰囲気ベース」で転職先を決めてしまっているケースが少なくないという印象があります。もちろん、『買う理由は雰囲気が9割』と言われることもあるように、人間という生き物は、意識的か無意識的かに関わらず、あらゆる意思決定を「雰囲気ベース」で行なっているというのは、ある側面では真実なのかもしれません。しかし、言うまでもなく、キャリア選択は一度しかない貴重な人生の満足度を大きく左右する重要な意思決定の一つなのですから、「大手企業で周囲に自慢できそう」「社長の経歴がピカピカ」「著名な投資家が出資していて凄そう」といった理由だけで転職先を選ぶべきではないと個人的には考えます(※ もちろん、こういった要素も意思決定を行う上で重要な判断材料の一つにはなると思いますが)。この点について、西口氏も本書の中(P161)で以下のように語っています。
ここで一つ伝えたいのは、自分が直接関わっていないブランドやビジネスであっても、これくらいの顧客分析とポテンシャル分析は可能だということです。ビジネス判断(この場合は、筆者がスマートニュースに参画するかどうか)を単純な印象や主観ではなく、実際の顧客の調査データで分析すれば、その精度を簡単に高めることができるのです。
最後に
上記の西口氏の取り組みは、(西口氏レベルの示唆出しまで行うのは若手ビジネスパーソンにとっては現実的には難しいかもしれませんが)やろうと思えば誰でもできることで、多くのビジネスパーソンが見習うべき態度であることは間違いないと思います。「当たり前のことを当たり前にやる」第一線で活躍するマーケターから学ぶことは非常に多いと感じました。また、今回は、書籍『たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング』をキャリア形成の観点からご紹介しましたが、言うまでもなく、マーケティングを学ぶ上でも本書は非常に有用な示唆が散りばめられていますので、実際に購入して読まれることを個人的にオススメ致します。また、私自身、本書を読んだことがきっかけで、改めてスマートニュースのアプリをダウンロードし直したのですが、本書を読んだ後に、スマートニュースのアプリを体験することで、新たな気づきが得られるかもしれません。iOS版:/ Android版
執筆者:勝木健太
1986年生まれ。幼少期7年間をシンガポールで過ごす。京都大学工学部電気電子工学科を卒業後、新卒で三菱UFJ銀行に入行。4年間の勤務後、PwCコンサルティング、有限責任監査法人トーマツを経て、フリーランスの経営コンサルタントとして独立。大手消費財メーカー向けの新規事業/デジタルマーケティング関連のプロジェクトに参画した後、大手企業のデジタル変革に向けた事業戦略の策定・実行支援に取り組むべく、株式会社And Technologiesを創業。執筆協力実績として、『未来市場 2019-2028(日経BP社)』『ブロックチェーン・レボリューション(ダイヤモンド社)』等がある。
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注1:2019年8月31日付で西口一希氏はスマートニュース社を退職し、9月1日からは業務委託契約でマーケティング戦略顧問として関与するとのこと。