公開日

2021/06/08

最終更新日

「コンサル出身者がスタートアップで活躍する理由」DI&IF 共同開催:Startup×戦略コンサル Meetup

2019年9月30日、国内を代表する独立系ベンチャーキャピタルとして知られるインキュベイトファンドと新規事業の創出を強みとするビジネスプロデュース会社、ドリームインキュベータの共催により、「DI&IF 共同開催:Startup×戦略コンサルMeetup」と題するイベントが開催された。「コンサル出身者がスタートアップで活躍する理由」にフォーカスを当てた本イベント。今回は、その概要を講演レポートとしてお届けする(写真撮影:多田圭佑)

【登壇者プロフィール(以下、敬称略)】

株式会社プレースホルダ取締役CFO 植西 祐介

一橋大学商学部卒業後、住友化学株式会社にて事業企画/投資計画立案/業績管理/工場管理業務を担当。その後、公認会計士試験合格後に新日本有限責任監査法人にて製造業/飲食/商社等の複数業界の会計監査・内部統制監査業務を経験。外資系戦略ファームのボストン・コンサルティング・グループでは複数グローバル企業においてM&A/中長期経営計画立案/オペレーション改善等のプロジェクトを多数経験。公認会計士&社会保険労務士(試験合格)のダブルライセンス

株式会社LegalForce 執行役員COO 川戸 崇志

東京大学教養学部卒、同大学院総合文化研究科修士課程修了。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社にて製造業クライアントの新規事業戦略立案及び全社変革に従事。2018年3月に株式会社LegalForceに参画。事業開発全般を担当し、2019年7月より執行役員COO。同社の弁護士・法務プロフェッショナル向け契約書レビュー支援ツール「LegalForce」は2019年4月の製品正式リリース後、導入社数は100社を超えている。

株式会社Leaner Technologies CEO 大平裕介

1993年生まれ。慶應義塾大学を卒業後、外資系コンサルファームA.T.カーニーに入社。3年間大手企業向けのコスト改革などに従事し、史上最年少での昇格を果たす。2019年2月に株式会社Leaner Technologiesを創業。5月にはプロダクトローンチに合わせ、インキュベイトファンドから5000万円の資金調達を実施した。同社にはクラウドワークスCOO 成田氏、Vapes創業者の野口氏、OYO事業開発責任者菊川氏などが創業メンバー兼アドバイザーとして参画している。

株式会社TERASS CEO 江口亮介

1989年生まれ。慶應義塾大学卒業後、リクルートに新卒入社し、住宅カンパニー(現リクルート住まいカンパニー)に配属。 3年間の広告営業、その後2年間不動産売買領域のプロダクトマネージャー、営業推進などに2年間従事。2017年より外資系コンサルティングファームのMcKinsey & Companyにコンサルタントとして入社、その後マネージャーを務める。グローバル企業の戦略立案を中心としながら、M&A、新規事業開発、デジタル戦略などを担当。2019年4月に株式会社TERASSを創業し、インキュベイトファンドからの資金調達を実施した。

株式会社ドリームインキュベータ 下平将人

法律事務所、LINE株式会社の社内弁護士(リーガルカウンセル)、新規事業開発を経てDIに参画。DIでは、ベンチャー投資、投資先の経営支援に取り組む。ペイミー社外取締役、ハッカズトーク社外取締役等。東京弁護士会所属弁護士。Arts and Lawに所属し、クリエーターの無料法律相談を担当

コンサル出身者がスタートアップで活躍する理由

下平:皆さん、はじめまして。株式会社ドリームインキュベータの下平と申します。本日はファシリテーターを務めさせて頂きます。宜しくお願い致します。

下平:まず、本日のイベントの趣旨についてお話させて頂きます。弊社はインキュベイトファンドさんと共同で投資を行うことも多いのですが、その中で、最近の傾向として、「コンサル出身者の方がスタートアップで活躍することが増えている」と感じることが御座います。そこで、現職でコンサルタントとして活躍している皆さんを招いて、スタートアップで経営幹部として活躍中の方々から「なぜスタートアップで活躍できているのか」等の理由を紐解いていって、皆さんの将来にお役立て頂きたいと思っております。

下平:ちなみに、戦略コンサルタント出身の起業家で言えば、直近ですと、ラクスル株式会社の松本恭攝氏や株式会社 PKSHA Technologyの上野山勝也氏などが著名な起業家として知られています。彼らにはいくつかの共通点があると思っています。一つ目は、皆さん、戦コンを平均で約3年で辞めているんですね。実際、マネージャーやパートナーまで昇進して起業したケースはほとんどありません。最初から「起業家志向」でコンサルティングファームに入社された方が多いという印象があります。二つ目は、皆さん、設立からIPOまでの期間が平均で8年ぐらいというところです。個人的な見解ですが、彼らのようなコンサル出身者が起業家として目立ってきている背景として、マクロ的な背景が変わって来ていることがあるのかなと思っています。どういうことかと言うと、事業機会がインターネットの外に広がりつつある今、いわゆる「事業難易度」が大変上がり、解決しなければならない課題の「変数」も非常に増えている。その結果、コンサル出身者が備えている強みがスタートアップにおいても生きる状況になってきている。そんな背景もあるのかなと個人的には感じています。

なぜ戦略コンサルからベンチャーに移ったのか

下平:では、早速、これらの背景を踏まえて、スタートアップの最前線で活躍している皆さんのお話を伺っていきたいと思います。前半の約1時間でパネルディスカッションを行い、その後、15分くらいで質疑応答を行えればと思います。では、早速、中身に入っていきたいと思います。それでは、皆さん、自己紹介も兼ねて、「なぜ戦略コンサルティングファームからベンチャーに移ったのか?決め手は何だったのか?」そのあたりについて、語って頂きたいと思います。では、最初に江口さんからお願い致します。

江口:江口亮介と申します。株式会社TERASSの代表を務めています。新卒でリクルートに入社して、マッキンゼーを経て、2019年4月に起業しました。元々、リクルートに入社して、3年で辞めて起業しようと思っていた青臭い社会人だったのですが、社会の荒波に揉まれ、自分のふがいなさを知ったことで、「まずは自分の専門性を上げたい」と考え、マッキンゼーに転職しました。その他、マッキンゼーに転職した理由としては、「英語を使って仕事をしたかったこと」「戦略やM&Aといったいわゆる『上流工程』を経験してみたかったこと」も挙げられます。

下平:起業のきっかけは?

江口:ちょうど1年くらい前に、「for Startups」というスタートアップ専門の転職エージェントの方と会う機会があって、その際に、「江口さん、起業したほうがいいですよ」と言われたんですね。それがきっかけで、「そう言えば起業したかったな、自分」という気持ちを思い出したんです。ただ、その時は、起業アイデアが自分の中に無かったものですから、「ベンチャーキャピタルを紹介してください」と伝えました。そこで、数社を紹介して頂いて、インキュベイトファンドさんにA4用紙に書いたアイデアのみのほぼ「丸裸」の状態で会いに行って、その後、様々なディスカッションを重ねた結果、最終的に、現在のビジネスモデルに行き着きました。その後、「投資するので、やりましょう」というお話を頂き、「じゃあ、会社辞めてやります」という話になり、起業しました。そんな私ですが、本日は宜しくお願い致します。

下平:続いて、大平さん、お願いいたします。

大平:株式会社Leaner Technologiesの大平と申します。弊社は何をやっている会社なのかと言うと、コンサルティングファームに在籍されている皆さんであればイメージが湧くのではないかと思うのですが、企業の「経費削減」のSaaS化に取り組んでいる会社です。

下平:有難う御座います。起業のきっかけは?

大平:私は学生の頃にすでに起業していたのですが、世の中の「ペイン」というか「マーケット」を理解しようということで、A.T.カーニーに入社しました。起業のきっかけですが、管理職になる直前で、「このままコンサルとして生きていくのか」「外の世界に出るのか」を迫られるタイミングがありました。元々、「自分で事業を創っていきたい」という考えがあり、A.T.カーニーに入社した経緯もあって、「これは起業するしかないな」と考えるに至りました。そして、自分の強みを活かして、誰にもできないようなことで、マーケットを大きく動かす、そんなことをやっていきたいなということで、ある意味、コンサルの「延長線上」ともいえるようなシステム会社を立ち上げた形です。

川戸:株式会社LegalForceの川戸と申します。実は、江口さんとはマッキンゼーに在籍していた頃に、タイでご飯を一緒に食べたりしたことがあります。私は新卒でマッキンゼーに入って、3年くらいで辞めて、現在は、株式会社LegalForceでCOOを務めています。COOというのは、乱暴な言い方をすると、「雑用責任者」のようなポジションです。江口さんや大平さんとは違い、私は自分自身で起業したわけではありません。「小さいスタートアップでイケている会社を教えてください」とマッキンゼー時代の先輩方に伝えていて、ある時、「AIで契約書を合理化する会社がある」と聞いて、色々と調べた結果、入社に至ると言う形です。本日は、宜しくお願い致します。

下平:いきなり起業するというのは、ある意味、ハードルが高い面もありますし、もしかしたら、COOである川戸さんは実は皆さんにとって一番近い存在なのかもしれませんね。最終的にどなたからのご縁が入社のきっかけになったんですか?

川戸:株式会社カケハシという薬剤師さん向けにSaaSサービスを提供しているスタートアップがありまして、その会社でCOOを務められている中川貴史さんという方が私のマッキンゼー時代の先輩だったんです。以前から、中川さんには、「良い会社があったら教えてくださいよ」と伝えていました。すると、中川さんの会社の顧問弁護士が弊社CEOの角田だったんです。そこで、中川さんからご紹介頂いて、入社に至った格好です。

下平:なるほど、有難う御座います。

植西:株式会社プレースホルダでCFOを務めている植西と申します。新卒で住友化学に入社しまして、経営企画部門で管理会計業務に取り組んでいました。在籍中に会計の勉強が面白くなって、公認会計士資格を取得し、E&Yグループに転職しました。E&Yグループでは、コンサルティング的な業務にも取り組んでいたのですが、母体が監査法人ということもあって、「せっかくコンサルティング業務に取り組むのであれば、戦略系コンサルティングファームの仕事も経験してみたい」ということで、BCGに転職しました。

下平:スタートアップに移るきっかけは何だったんでしょう?

植西:実は、スタートアップにこだわっていたわけではなくて、「どこかに所属する」という目線で考えていました。プライベートな話で恐縮ですが、子供が早産で28週目で生まれたこともあり、BCGでも育休を取得していたのですが、かなり大変でして、そのタイミングで「子育て」や「子どもの将来」に携わっていきたいと思ったんです。そして、その時期に出会ったのが、ファミリー向けの次世代テーマパーク事業「リトルプラネット」を展開するプレースホルダという会社でした。代表と出会ったのは、BCGに入社する前のフィリピンのセブ島での短期留学の時です。その時はフェイスブック交換だけで終わったのですが、その後、実際に、テーマパークを出すタイミングで、管理業務を行う人間が社内におらず、代表のアシスタントを募集していたんです。私がたまたまそれを見ていて応募したら、「アシスタントを探していたのに、全然違うスペックのやつが応募してきた」となりまして。で、その後、よくよく話し合って、入社を決めたという経緯です。

川戸:事業としては、テーマパークをたくさん運営するというイメージですか?

植西:おっしゃる通りです。XRやARを活用したアトラクションを開発してパークを展開・運営します。チームラボさんが技術的には引き合いに出されることが多く、非常にクリエイティブサイドが重要な会社です。ゴチャゴチャとした経歴ではありますが、本日は宜しくお願い致します。

下平:起業家の右腕を固める川戸さんと植西さんに重ねてお伺いしたいのですが、スタートアップへの入社を決める際に、2人ともかなり早いタイミングで入社されていると思うのですが、実際、どのような軸で今の会社に入る意思決定をされたのでしょうか?戦略コンサルタントの場合、市場や競合を分析したりして、いわば左脳的なアプローチで、ビジネスモデルの将来性について調査を行うのでしょうか?まずは、川戸さん、お願いします。

川戸:そうですね。その点については、しっかり調べました。というのも、当時の私はとにかく「お金」に興味があったので、「本当にこれって儲かるんかいな」という考えが強くありまして。

下平:そうだったんですか。それは意外ですね。

川戸:当時、シードラウンドの資金調達の資料作成をボランティアでお手伝いしていたんですが、何人か知り合いの弁護士の方々にヒアリングを行なった結果、「これはいけるぞ」と確信し、入社を決めました。弊社が提供する「LegalForce」というサービスは、契約書をアップロードすると、契約書の該当箇所にリスクがあるか否かを一瞬で分析し、修正案まで提案してくれるサービスなのですが、これは顧客の本質的な課題解決に間違いなく繋がると思ったんですね。

下平:なるほど。

川戸:私見ですが、本質的に課題を解決していないと本当の意味で「稼げる」サービスにならないと思っています。契約書のレビューというものがあって、そこに「ペイン」があって、そこにAIという独自のやり方でその課題を解決することができるのであれば、それは「儲かるよね」という話です。ただ、真に重要な問題は、「そのAIを本当につくることができるのか」という点なんですが、そこはウチのCTOが「作ります」と言っています(笑)。最後、そこは「信じる」しかないですよね。ただ、マッキンゼー時代に、ディープラーニング関連のプロジェクトをいくつか経験していたこともあって、おおよそ「できそうかな」という肌感覚はありました。「多分、大丈夫だろう」と。

下平:有難う御座います。植西さん、いかがでしょうか?

植西:私の場合、それなりに会社のことも調べてはいたものの、一番重視したのは経営メンバーでした。今、弊社はシリーズBの調達ラウンドを進めている段階で、私自身はシリーズAの前の段階でジョインしたのですが、調達を繰り返すたびに思うのが、初期の頃は事業内容もさることながら、ボードメンバーや主要メンバーのケイパビリティといった組織面を重視して企業価値が決まることが多い。これは実情としてはあります。その後は、川戸さんがおっしゃるように、マーケットとしてのポテンシャルを見られるかと思います。私の場合、シードラウンドで入社したこともあって、どちらかというと、人のバリューを重視して入社を決めたという形ですね。

コンサル時代に得たスキルで特に役立ったもの

下平:有難う御座います。非常に参考になります。実際に起業されてみて、もしくは、「右腕」になってみて、特に役に立ったところを一つ挙げるとすると何でしょうか?逆に、この部分は「アンラーニング」しなければならなかった部分はありますか?まず、江口さん、どうでしょうか?

江口;そうですね。私は自分のことをリクルートとマッキンゼーの「ハイブリッド人間」だと思っているので、戦コン時代の経験も、リクルートの「礎」の上で作られたものが大きい。その前提でお聞き頂ければと思います。コンサルで獲得したスキルで言えば、「ディスカッションからアウトプットを生み出す力」。これは非常に有効だなと思います。例えば、30〜60分のディスカッションを行う場合、「なんとなく終わっちゃう」のでは当然ながらダメで、「論点をまとめ、ディスカッションを誘導し、結果を出す」「このディスカッションはこういう展開になりそうだから、こういう資料が必要で、こういうプレゼンテーションを行う。そして、こういう座席配置で行く」といったことを考える訳です。こういったスキルは事業推進を行う上でも非常に役立っているなと感じます。

下平:逆に、アンラーニングしなければならなかった点は?

江口:そうですね。コンサル時代は「一を聞いて十を知る」タイプの人が多く、その意味で、働きやすく恵まれた環境であった訳ですが、その環境は「普通」ではない訳です。その意味で、起業した当初は戸惑いがありました。そのことを再認識できたのは「学び」でしたね。

下平:なるほど。そこで工夫したポイントってありましたか?

江口:誤解のないように言っておくと、弊社の人材に関しては非常に優秀なのですが、クラウドのワーカーさんやオンラインの秘書さんを活用させて頂く際、場合によっては、「期待値の調整」が必要だなと感じる時はあります。工夫ポイントとしては、ありきたりですけども、「手前でチェックポイントをたくさん設ける」ことですね。

下平:なるほど、有難う御座います。続いて、大平さん、お願い致します。

大平:コンサル時代に獲得したスキルやマインドセットがどれだけ役立っているのかは良くわかっていないんですが、本当に良かったなと思うのは、世の中の「B to Bの闇」を私のような若造が知ることができた点だと思っています。大手企業のエグゼクティブの方々が大金を払って若造に発注してくれて、彼らの抱える「苦しみ」を早々に知ることができるというのは貴重な経験になると思います。加えて、B to Bに関して言えば、ビジネスモデルを聞いたときに、それが「イケそうかどうか」「実際に苦しんでる人がいるのかどうか」ということが早々にわかるようになります。それがラーニングとしては凄く良かったと思っています。私は経費削減の事業に取り組んでいますが、学生起業家で経費削減をやる人間なんて一生出てこないと思うんですよね(笑)

下平:まさに、そのあたりはA.T. カーニー出身でラクスルCEOの松本さんもおっしゃっていますよね。

大平:先日、松本さんとランチした際、この話になりました。彼も起業当初、「印刷比較.com」というコピー機の比較サイトを作ってるんですが、学生起業家であれば、コピー機の比較サイトなんて絶対に作らないわけですよ。みんな、あんまり興味ないですし。その意味で、世の中の本当の意味での「ペイン」を知ることができたのは非常に良い経験だったと思います。

下平:逆に、アンラーニングする必要があった部分についてはどうでしょうか?

大平:「考えないようにする」ことですかね。コンサル時代は、クライアントの大手企業から提供されたデータがあって、そのデータを使って、「答え」を出せるケースが多いのですが、スタートアップの場合、やってみないとわからないケースの方が多い。こういう状況って、コンサル的にはかなりの精神的な負担になり得るんですよね。「考えても答えが出ない問題については、意識的に考えないようにする」これが非常に大変でしたね。

下平:有難う御座います。続いて、川戸さん、お願い致します。

川戸:今の大平さんのお話は凄く重要だと思います。加えて、「アンラーニング」のポイントですが、コンサル流の問題解決とスタートアップにおける問題解決って、時間軸が違うので、そこは気をつける必要があるかなと思っています。

下平:有難う御座います。次に植西さん、いかがでしょうか。

植西:スタートアップにおいては、圧倒的に人的リソースがネックになることが多いと感じています。「こういう論点があって、この論点に対するサブ論点はこれで」という風にコンサル的なやり方でブレイクダウンしていったとしても、必ず人的リソースの問題にぶち当たるんですよね。なので、トップダウンでやりすぎてしまうと、「その前に人を採用しろよ」という話になってしまいます。なので、あまり「トップダウン」になりすぎないように気をつけています。

スタートアップの戦略策定の実際

下平:続いて、3つ目の質問ですが、スタートアップにおける戦略策定の実際についてお伺いしたいと思います。では、植西さんからお願い致します。

植西:ディズニーを見て頂ければわかると思うのですが、世界観やキャラクターが面白くなければ、我々のような事業はうまくいきません。なので、弊社の場合ですが、戦略も当然ながら重要なのですが、それと同じくらいクリエイティブが重要です。ロジカルに考える人とクリエイティブに考える人のバランスは非常に重視していますね。

下平:有難う御座います。江口さん、どうですか?

江口:スタートアップといっても幅広いので、ステージによってまったく異なるという前提があります。弊社の場合、私を含めて6人のメンバーで事業に取り組んでいる段階ですが、正直言って、3年後の戦略を立てている場合ではないんですよね。とはいえ、戦略を立てること自体は行うのですが、その戦略がどれだけ精緻かについてはそれほど重要ではない。特に、弊社の事業は、PMF(プロダクト・マーケット・フィット)前の段階ですので、戦略というか、むしろ「今のプロダクトをどう良くしていくか」というお題が先にある状態かなと思っています。

大平:ちょっと皆さんと違う観点からお話をします。大企業の戦略策定において、一番最悪なのは、既存事業が「ぶっ壊れる」ことなんですよね。なので、どうしても「改善」っぽいケースが多いですし、新規事業といっても、既存事業のカーブアウト案件だったりすることが多い。私見ですが、「どのようにして既存事業と折り合いをつけるか」「どのようにして既存事業を壊さずに伸ばしていくか」ということが大企業における戦略策定の「ミソ」になると思います。一方、スタートアップの場合、壊すものが何もない。じゃあ、何が一番最悪なケースかと言うと、エンジニアの工数が無駄になることなんですね。弊社にとって一番貴重なリソースは資金ではなく、コンサルのナレッジでもなく、エンジニアの工数です。「エンジニアの工数を割いて作ったものがまったく使われない」という状況が一番最悪なんです。なので、戦略の作り方として、大企業の場合は、長い期間をかけたとしても「ミスらない」ことが実は重要な場合も多い。その一方で、スタートアップの場合、エンジニアの工数を無駄にしないために、どのようにして「モック」の段階で確度を上げられるかということが重要だなと個人的には思っています。

下平:なるほど。プロトタイピングをつくる上で気をつけるべきことはありますか?

大平:無料で提供する場合と有料で提供する場合では、ユーザーさんの「本気度」がまったく違うんですね。なので、「有料で売れるミニマムなプロダクトを作る」「とりあえず売れるものをつくって、フィードバックをもらう」ということが重要だと思います。最初の段階では、ユーザービリティもそこまで気にしなくて良いです。まずは使って頂いて、ダメなところをフィードバックして頂く。これが重要です。「耳の痛いフィードバック」をしてくれる人は本当に貴重です。

下平:川戸さん、いかがでしょう?

川戸:「勝利条件を定める」ことが戦略を策定する上で重要だと考えています。その勝利条件というのは、大企業の場合、だいたい与えられていることが多い。例えば、「原価低減で普段は3%だけど今年は10%下げろ」とか「何も決まっていないけれども、新規事業で売上を3年以内に1000億円にしろ」とか。「無茶な話だな」とも思うんですが、少なくともどうやったら「勝利」なのかを考えなくて良いという点で、ある意味では非常に恵まれた状況なのだと思います。一方、スタートアップの場合、この「勝利条件」を考えることが非常に難しいのですが、「勝利条件」をみんなで話し合って、本当に納得できる所に落とし込んで行くことがアーリーステージのスタートアップで働く上での一番の醍醐味だと思っています。そこに「納得感」がないと誰もついて来ないです。

最後に

今回の講演レポートは以上となる。前述の通り、本イベントは、戦略コンサルティングファームに在籍中 or 卒業生で、起業、スタートアップ転職、事業立ち上げに興味があるビジネスパーソンを対象に開催されたが、インキュベイトファンドおよびドリームインキュベータでは、今後も、様々なイベントを開催する予定とのこと。次回以降の開催に関心がある場合、公式サイトをチェックしてみると良いだろう。

【参考情報】

インキュベイトファンド株式会社

所在地:東京都港区赤坂1-12-32 アーク森ビル3F
設立日:2010年
代表:赤浦 徹、本間 真彦、和田 圭祐、村田 祐介

株式会社 ドリームインキュベータ

所在地:東京都千代田区霞が関3-2-6 東京倶楽部ビルディング4F
設立日:2000年
代表:山川 隆義

執筆者:勝木健太

1986年生まれ。幼少期7年間をシンガポールで過ごす。京都大学工学部電気電子工学科を卒業後、新卒で三菱UFJ銀行に入行。4年間の勤務後、PwCコンサルティング、有限責任監査法人トーマツを経て、フリーランスの経営コンサルタントとして独立。大手消費財メーカー向けの新規事業/デジタルマーケティング関連のプロジェクトに参画した後、大手企業のデジタル変革に向けた事業戦略の策定・実行支援に取り組むべく、株式会社And Technologiesを創業。執筆協力実績として、『未来市場 2019-2028(日経BP社)』『ブロックチェーン・レボリューション(ダイヤモンド社)』がある。