2019年11月7日、世界中の経験・知見が循環する社会の創造を目指す株式会社サーキュレーションとSDGsの実装支援に強みを有するSDGパートナーズ有限会社の共催により、「Sustainability CEO Session〜SDGsとESGに取り組むメリット〜」と題するイベントが開催された。2030年に向けた世界共通の目標であり、国内外で大きな注目を集める「SDGs」にフォーカスを当てた本イベント。今回は、その概要を講演レポートとしてお届けする。
写真撮影:多田圭佑
目次
イントロダクション
まず、イベントの冒頭で、株式会社サーキュレーション ソーシャルデベロップメント推進室にて代表を務める信澤みなみ氏(以下、信澤氏)から、本イベントの全体像が説明された。
「一人ひとりが自分らしく生きる社会を創る」ことを軸にサーキュレーションの創業に参画した信澤氏は、成長ベンチャー企業に特化した経営基盤構築/採用人事・広報体制の構築/新規事業創出に取り組んだ後、人事部門の立ち上げ責任者/経済産業省委託事業の責任者を歴任。現在は、企業のサスティナビリティ推進支援を行うソーシャルデベロップメント推進室の代表を務めている。本イベントでは、信澤氏がモデレーターを務める形で、SDGパートナーズ代表取締役CEO・田瀬和夫氏とサーキュレーション代表取締役CEO・久保田雅俊氏によるトークセッションが行われた。
【登壇者プロフィール】
田瀬 和夫氏
SDGパートナーズ有限会社 代表取締役CEO
1992年より外務省に13年、国際連合に10年勤務し、国連外交、人権、アフリカ開発、官民連携、人道支援、人間の安全保障を専門とする。2014年より2017年までデロイトトーマツコンサルティングの執行役員。SDGs推進室を立ち上げ、企業のSDGs戦略構築、ESG投資対応、地方自治体のSDGs総合計画策定度を支援。2017年にSDGパートナーズを創業。企業のサステナビリティ方針全体の策定と実施支援、SDGsの実装支援、統合報告書の設計支援、ESGと情報開示支援、自治体と中小企業へのSDGs戦略立案・実施支援をリードする。
久保田 雅俊氏
株式会社サーキュレーション 代表取締役CEO
株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア株式会社)で初の社内ベンチャー立ち上げを経て、2014年に株式会社サーキュレーションを設立。プロフェッショナルの経験・知見を活用して経営課題を解決するプロシェアリングサービスをメイン事業とし、国内最大規模となる13,000名のプロ人材ネットワークを構築。経済産業省の人材力強化研究会に登壇するなど、オープンイノベーションや新しい働き方の普及に向けた活動を精力的に行なう。
そもそもSDGsとは何か?
トークセッションの冒頭で、「そもそもSDGsとは何か」についてあらためて議論が展開された。SDGsとは、「Sustainable Development Goals」の略称であり、「持続可能な開発目標」と一般には訳される。2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として、2015年9月の国連サミットにおいて採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された国際目標として位置付けられている。SDGsは、持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成されており、「地球上の誰一人として取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っている。
この定義を踏まえた上で、田瀬氏は「少し別の観点からの補足となりますが」と述べた上で、以下のように説明を加えた。
「SDGsは、少し大げさに言えば、人類のこれまでの歴史の“集大成”であると捉えることができます。歴史を振り返れば、人類の歴史というのは、言ってしまえば、戦争の歴史でした。しかし、『このまま“殺し合い”をしていると、全人類が“共倒れ”になる』という危機感が発端となって、『共存することを戦略にしましょう』という掛け声のもと、誕生したのが、国際連盟であり国際連合です。
そして、この文脈で、『ちょっと地球の資源を“使いすぎ”だよね』という課題認識が徐々に現れてきて、この課題を解決すべく、『2030年に向けて、こんな地球を次世代の子供たちに残そう』ということを3年間にわたって議論して、妥結したのがSDGsなんです。193の国と地域の首脳が『15年後の世界の理想の形』について議論した結果、全会一致で、一つの文書体系として整理することができたという点で、きわめて画期的な出来事だったと捉えることができます。まさに『人類初』と言えるようなインパクトをもたらすものであると個人的には考えています」
SDGsが注目されている理由
田瀬氏による上記の説明を踏まえた上で、モデレーターの信澤氏から、「なぜ、SDGsが国内外で急速に注目を集めているのか」について質問が投げかけられた。これに対して、田瀬氏は、「あえて誤解を恐れずに言えば、SDGsにカネの匂いがし始めていることが一因」と述べ、以下のような見解を明らかにした。
「GAFA(※ Google、Apple、Facebook、Amazonの略称)や欧米の金融機関をはじめとして、多くのグローバル企業がSDGsに対する取り組みを本格化させていることが、注目度を押し上げている面はあります。また、我が国においては、世界最大の機関投資家として知られる年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が国連責任投資原則(PRI)に2015年10月に署名しており、これに伴い、我が国のさまざまな機関投資家も、投資先の企業を選定する上で、SDGsを経営に組み込んでいるか否かを重視する動きが出てきています」
SDGsによってもたらされるメリット/経営者としてどのように捉えるべきか
次に、「SDGsによってもたらされるメリット」について議論が展開された。田瀬氏は、この問いに対して、「2030年の経済社会の状況を先読みし、逆算した上で、自社の経営戦略を考える必要があること」をメリットの一つとして挙げる。例えば、自動車業界であれば、電気自動車をはじめとして、地球環境保全の観点を踏まえた事業活動に取り組むことがこれまで以上に求められるようになると同氏は説明する。
上記の見解に対して同意を示した上で、「SDGsによってもたらされるメリット」の一つとして、「経営メンバーの“視座”が上がること」が挙げられると久保田氏は言及した。
「SDGsに取り組むことによって、自社で策定していたビジョンがどのような形で社会課題の解決につながっているのかが“見える”ようになり、その結果、経営メンバーの“視座”が格段に上がるように思います。ある意味では、SDGsは経営メンバーの“視座”を高めるためのツールの一つと捉えることもできるのかもしれません」
事業活動を継続する上で、自社の収益力を高めることが重要であることは言うまでもないが、それと同時に、その事業活動が「社会的に意義のあるものなのか」「ビジネスモデルとしてサステイナブルなものなのか」「社会にとって永続的に価値のあるものなのか」を絶えず意識することが重要であると久保田氏は語る。
具体的にどのような形で取り組むべきなのか
上記の見解を踏まえ、「具体的にどのような形でSDGsに取り組むべきなのか」について議論が展開された。この問いに対して、田瀬氏は、「どんなことからでもかまわない」と述べた上で、以下のような見解を明らかにした。
「例えば、『SDGs宣言』を発表することも良いと思いますし、カードゲームなど気軽に取り組めるものから始めてみることも選択肢の一つであると思います。ただ、SDGsに取り組む上で最も重要なポイントは、自社の社会的な存在意義を誰もが“腹落ち”するような言葉で伝えることができるかどうかだと考えています」
その一方で、田瀬氏は、「すべての会社は社会に対して良いことと悪いことをしている」と述べた上で、以下のように指摘した。
「SDGsを経営に取り入れる上で重要なポイントは、自社が社会に対してどれだけ“良い”ことに取り組んでいるのかということに加えて、どれだけ“悪い”ことをやっているのかについて正確に認識することです。多くの経営者は『SDGsをやりたい』と言いながら、出来ていないことに対して目をつぶりがちです。『マイナスな要素から目を背けない』これはSDGsに取り組む上で最も重要な態度の一つであると言えます」
SDGsに本気で取り組んだ先に何があるか
最後のテーマとして、「日本の経営者が本気でSDGsに取り組む先に何があるか?何を目指すか」について議論が展開された。この点について、久保田氏は、「あくまで一つの側面だが」と前置きした上で、以下のように指摘した。
「SDGsに本気で取り組んだ先に何があるかという話ですが、(私は経営者という立場なので)経営の目線で言えば、新卒の採用に対して非常にポジティブに働く可能性があると考えています。どういうことかと言うと、弊社の場合、新卒採用の際に、メガベンチャーやプロフェッショナルファームと“競合”するケースがあるのですが、我々が欲している問題解決能力の高い学生さんは、社会課題を解決したいという欲求を強く持っていることが多いんです。その意味で、企業がSDGsに取り組んでいるということ自体が意味を持つ。そんな側面も少なからずあるのではないかと考えています」
田瀬氏は上記の見解を踏まえた上で、企業がSDGsに本気で取り組むことによって、「すべての人々がより多くの選択肢の中から自分だけの人生を選ぶことができるようになり、その先にあるWellBeingの実現に繋がる」と述べ、LGBT/障がい者/民族的少数者のようなマイノリティの立場にある人々が社会に正当に参加できる機会がこれまで以上に生まれてくることに言及した。
執筆者:勝木健太
1986年生まれ。幼少期7年間をシンガポールで過ごす。京都大学工学部電気電子工学科を卒業後、新卒で三菱UFJ銀行に入行。4年間の勤務後、PwCコンサルティング、有限責任監査法人トーマツを経て、フリーランスの経営コンサルタントとして独立。約1年間にわたり、大手消費財メーカー向けの新規事業/デジタルマーケティング関連のプロジェクトに参画した後、大手企業のデジタル変革に向けた事業戦略の策定・実行支援に取り組むべく、株式会社And Technologiesを創業。執筆協力実績として、『未来市場 2019-2028(日経BP社)』『ブロックチェーン・レボリューション(ダイヤモンド社)』などがある。